アメリカ大統領選挙が11月、日本でも自民党総裁選が9月、2024年は政治的変動が多く「大きな転換点を迎える年」となっています。現時点(8/25)で日本の主要紙やメディアはあたかも「すでに民主党ハリスが圧倒的に優勢になった」かのように報道していますが本当にそうでしょうか?
世論調査でたとえ1~2%の幅で相対的優位になったとしても、それは誤差の範囲内だと考えるべきでしょう。これが4~5%以上の差が開いてきたら、その時点でようやく圧倒的優位が生まれていると判断できます。
というのも、アメリカ社会は政治分断が進んでいて、すでにガチガチの共和党支持者、ガチガチの民主党支持者に明確に割れています。彼らが他陣営に寝返ることはまず考えられません。
残りのわずか10%弱の無党派層がどちらに付くかによって、毎回の選挙結果が大きく左右されます。10%弱の無党派の過半数の支持を取り付けたほうが最終的に優位に立つのです。
残念ながら、カマラ・ハリスに対して無党派層の過半数の支持が得られている状況とは言えません。今の状況は、老兵バイデンに失望していた元々の民主党支持層がかなりカムバックして、ハリス支持で一致団結し始めているというだけの状況です。いわば民主党シンパ層内での団結が高まっている(内輪で盛り上がっている)だけなのです。
日本の主要紙・メディアは、アメリカ国内メディアのうちCNN、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズの3社を主な情報源としています。日経も朝日も読売もこれら3社の報道をそのまま流用しているだけです。
しかし、これらは民主党寄りの報道に走っているメディア媒体で、報道値(調査手法)にかなりバイアスが掛かっていることを前提に見るべきです。
私が注目しているのは、リアル・クリア・ポリティクスによる党派中立的な調査データ集計です。これがおそらく実態に近いのだろうと思われます。
世論支持率が結果には繋がらない
いくら全米の世論調査でハリス支持が49%、トランプ支持が47%で相対的に民主党がやや優位であると示されたとしても、残念ながら大統領選がその通りの結果にはならない可能性が高いです。
これは前々回 2016年のヒラリー対トランプの選挙結果を振り返れば分かるでしょう。世論調査の全体得票率がヒラリーの方が多少は上回る予想値が出ていたにも関わらず、実際に大統領になったのはトランプでした。
実際の大統領選の結果を決めているものは何なのか?それは「7つの激戦州」(スイング・ステート)の勝敗です。
大統領選は、誰が大統領になるかを国民がストレートに選べる「直接選挙」ではありません。
州ごとに割り当てられた「選挙人」を勝ち取っていき、その選挙人による投票結果で選ばれるという「間接選挙」なのです。
共和党寄りの州(Red State)、民主党寄りの州(Blue State)がハッキリ色分けされていて、これら固定州はまず変化することがありません。カリフォルニア州が共和党に寝返ったり、テキサス州が民主党に寝返ることはまず起こりません。
ということは、最終的な勝敗を決めているのは、右にも左にも定まらず毎回の揺れが大きい浮動票的な州だということになります。それが激戦7州(スイングステート)なのです。ちなみに7つの州は大きく3つのグループに分かれます。
1つ目が五大湖周辺のラストベルトと呼ばれるミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア州の3つ。ここは斜陽化した製造業・石油エネルギー産業に従事している白人労働者が多い地区です。
2つ目がバイブルベルトと呼ばれるジョージア、ノースカロライナ州の2つ。黒人が多く、かつ南部なのでキリスト教保守派が根強い地域です。
3つ目がサンベルトと呼ばれるアリゾナ、ネバダ州の2つ。ヒスパニック系が人口の大半を占め、メキシコ国境が近く移民問題や犯罪抑止が焦点となりがちです。
2016年の大統領選でヒラリーはトランプにこれら激戦州の大半を奪われましたが、2020年にバイデンはミシガン、ウィスコンシン、アリゾナ、ネバダの4つで選挙当日に勝ち、郵便投票分の完全開票にまで長期もつれ込んで、最終的にペンシルベニアとジョージア州でもギリギリ競り勝ちました。
今回24年の大統領選も、最後までこれら激戦7州の結果次第となるでしょう。
特にラストベルト(錆び付いた工業地帯)と呼ばれる3州(ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア)をハリス氏が確実に取ることができれば勝利は堅いです。
「最後の鍵」と言われているのが「ペンシルベニア州」です。ペンシルベニア州は選挙人の割り当て数が19人の大票田ですから、ここを落とすと相当不利となります。
ラストベルト3州の有権者は、斜陽化している製造業やエネルギー産業に従事していた白人労働者が中心です。彼らに刺さる経済政策(産業振興策)を打ち出さなければ支持は得られません。
しかし、ハリス氏が最近提示した政策(バラマキ減税)は、必ずしも彼らに刺さる内容とは言えません。
むしろ、製造業や石油ガス産業を復活させるのは、共和党トランプの方だと思われかねない。さらにハリス氏はインド系の黒人女性であり、白人労働者層とはバイデンより距離感が遠くなります。
今後のテレビ討論会などで、産業振興やインフレ対策といった経済政策を具体的に示して、ラストベルトの無党派層にも浸透できなければ、今のままでは民主党シンパ層以外には支持が大きく広がらないでしょう。
実際にペンシルベニア州の支持率はトランプ陣営の方が優勢を維持しています。ここが3%以上の差でハリス氏優位にならなければ厳しいでしょう。
ペンシルベニアを落としたら、ウィスコンシンとミシガンを仮に押さえていたとしても、残りのネバダ、アリゾナ、ジョージアのうち2~3州は取らないと難しくなります。実際はそちらの方がはるかに困難です。
本気でペンシルベニア州の票を取りに行く気ならば、副大統領にペンシルベニア州知事のシャピロ氏を選ぶべきでした。ハリス氏は人選ミスをしたのでは?と思います。
こうした事実を日本のメディアはあまり伝えていません。
現状は未だに混沌としていて、支持率が拮抗する状況に戻ったにすぎず、トランプが返り咲く可能性も高く、激戦州の大半でまだトランプ優位の状況が変わっておらず、このまま行けば「たぶんトランプ、もしかしてハリス」ぐらいの感じです。
ヒラリー敗退の悪夢が繰り返される懸念
バイデンの電撃撤退、民主党大会があり、民主党支持者層の内部では大いに盛り上がっているご祝儀相場になっていますが、9月10日のテレビ討論会の結果次第で、この潮目がまた覆る可能性があります。
今回は命式分析は載せてませんので、9/10討論会以降にまた別記事で書こうかと思っていますが、ハリス氏の失言が多ければ今後厳しくなるでしょう。
ハリス氏が単なるバラマキ減税ではない、きちんとした産業振興策(ラストベルトの労働者に刺さる内容)を提示できるのか?
ハリス氏の人となりが無党派層にまで浸透して「信頼できる政治家」として認知されるのか?
10%弱の無党派層の過半数の支持を取り付けられなければ、現実には勝利までまだ遠いでしょう。最悪2016年のヒラリー敗退の悪夢が再現される可能性があります。
そもそも2020年のバイデン勝利の時と今回は状況が違っています。
前回はトランプ政権のいい加減なコロナ対策に対する批判が根強い中での選挙で、トランプにウンザリしていた有権者が多く、民主党寄りの追い風が吹いていました。
しかし、今回は過去4年のバイデン政権に対する審判が下る選挙です。インフレ物価高による国民生活の圧迫に有効な対策を打てていない、不法移民問題も何も改善していない現状があり、ガザ紛争への対応のまずさもあり、どちらかと言えば民主党にとっては明らかな逆風です。
しかもハリス氏はバイデン政権の一員でしたから、今まであなたは何をしていたのか?といって責任を問われる側に回ります。
以上から考えても、そう簡単にこのままハリス氏が圧倒的優位で逃げ切れるという保証はありません。日本としては「もしトラ」になっても対応できる人が、総理や主要閣僚にいないと厳しいのではないでしょうか。